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「桜井さん」
悟が、懐かしそうな声を出す。
「相変わらずだな、杉村」
「なんで、あなたがここに」
「いや、去年の借りを返そうと思ってね」
ターニャの疑問に、桜井が半ば苦虫を噛み潰したような、半ば照れたような顔で答えた。
「去年だって、いたんだがね。だが、警官の恰好をしていて、あっさりと撃たれちまった。防弾ベストを着ていたから助かったが、情けない話、撃たれた衝撃で気絶しちまったんだ。で、気が付いた時には、すべてが終わっていた」
「だっさー」
カレンが、からかいの口調で言う。
「まったくだ。なにも、言い返せないよ」
怒るふうでもなく、桜井がさらりと返した。
「まあ、そんあこともあるわな」
悟が、桜井を慰める。
「ところで、私を主役にした舞台、当たってるようね」
カレンが麗に向かって微笑んだ。
「お蔭さまで」
麗も、笑顔で応える。
武装した、百人もの集囲まれているというのに、なんとものんびりした雰囲気だ。
カレンと麗が話しをしている間に、安藤が「桜井」と声をかける。
「おっ、安藤じゃねえか。なんしてるんだ、こんなとこで」
「お知り合い?」
文江の質問に、「警察学校の同期だよ」と安藤が答えた。
「こいつは、公安にいっちまったがね」
「おまえは、マル暴だそうだな」
「ああ、やーさん相手に、頑張ってるよ」
そう答えて、安藤がカレンとターニャを見る。
「で、この二人は?」
「おまえも、名前を聞いたことくらいはあるだろう。カレンとターニャだ」
「あの、世界の三凶と呼ばれている?」
安藤は、警察に身を置いているので、一応、二人の名前は知っている。
世界の三凶なんて呼ばれているので、もっとごついのを想像していたのだが、目の前にいる二人は、まるでモデルか女優のようだ。
だが、放たれている迫力は並ではない。暴力組織の頂点にいるも者でも、この二人のように、さりげなく迫力のある気を放つものはいない。
安藤は納得した。
「おまえら、いい加減にしろ」
自分達の存在を置き去りに、まるで同窓会のような雰囲気になっている集団に、黒服のリーダーが語気を荒げた。
「あら、まだいたの?」
挑発とも、馬鹿にしたとも取れる口調で、カレンが言う。
「なにを言ってやがる。いくら世界の三凶と呼ばれているおまえらでも
この人数を相手に、勝てるはずがあるまい」
「今の赤い金貨の奴らは、世間知らずばかりか」
リーダーの言葉に、桜井が嘲笑を浮かべた。
桜井の言葉が引き金となって、武装集団が一斉に銃を構える。
カレンが、素早く動いた。ターニャと桜井も、負けてはいない。
三人は、一斉に集団のなかに躍り込んだ。
安藤も、そこに加わった。
カレンの鞭が唸る度、黒服の銃が宙を舞い、ターニャと桜井が黒服の間を駆け抜ける度、黒服がバタバタと倒れてゆく。
安藤も、三人に負けず劣らず暴れまわっている。
それ以外の男連中は、女性や子供を守るように円陣を組み、四人の反撃を避けながら黒猫を奪おうとする黒服を相手にしていた。
善次郎が懐に入れていた猫は、妻の美千代に預けている。
みな素人のはずなのだが、相手が犯罪組織の連中だとて負けてはいない。
木島は、昔暴力団の武闘派だっただけに、なんなく相手を打ち倒してしるし、健一も洋二も奮闘している。それに、古川も歳に似合わず強い。
やはりこの人は、昔は刑事か暴力団だったのではないか。
古川の奮闘ぶりを見ながら、洋二はそう思った。
ものの五分と経たぬうちに、百人からいた赤い金貨の連中は、みな路上に倒れていた。
奇跡的にというべきか、みんな無傷だ。
「やっぱり、歯ごたえのない奴ら」
「そうね、もっと楽しませてくれてもいいのに」
「俺は、まだ、去年の借りをかえしちゃいねえぞ」
カレンもターニャも桜井も、ありありと不満を顔に表している。
「それにしても、安藤。腕は衰えちゃいないな」
桜井が、嬉しそうな顔で安藤の顔を見た。
見かけによらず安藤は、空手五段、柔道四段、剣道三段の腕前だ。
「ほんと、刑事にも、こんなのがいたなんてね」
ターニャも、少し驚いているようだ。
「ま、認めてあげるわ」
カレンの、最大の褒め言葉だ。
そこへ、大勢の武装した警官が突入してきた。
桜井と安藤が警官隊に歩み寄り、事情を説明しだした。
「結局、去年と同じことが起こっちまったな」
木島の言葉に、去年居合わせた連中は、一様に苦笑いを浮かべた。
「また、新八がおらへんぞ」
健一がそう言った途端、突如新八が現れた。
「また、綾乃さんか?」
「そうなんです。また、僕の前に現れました」
「で、今度は、どんなカードをもろたんや」
新八が、健一にカードを渡した。
カードに書かれている文字を見た途端、健一が吹きだす。
「そんな笑わんでも、ええやないですか」
新八が、少しふくれっ面で抗議する。
「そやかて、おまえ」
「なに、今年はどんなことが書かれてたの?」
麗が興味深げに、健一からカードを奪うように取った。
「うわ~」
麗がカードを見るなり、嬌声を上げた。
「うわっ」
「やだ」
麗が持つカードを覗き込んだ面々も、みな笑いを含んだ声を上げた。
「綾乃さんらしいな」
杉田が微笑むと、「そうですね」と清水も微笑ながら頷いた。
カードには四文字、「永久不変」と刻まれてあった。
要するに、新八は変わりようがないのだ。
去年と同様、強い女性に守ってもらえということだ。
「どうせ、僕なんか」
みんなの反応に。新八はいじけている。
「ま、おまえはそれでええんや。だからといって、みんなおまえのことが好きなんやで」
健一が、新八の肩を強く叩く。
「そうよ。あなたは、それでいいの」
「そうですよ、私もそう思います」
涼子と良恵が、口々に慰める。
「みんなの言う通りだな。新八っあん、あんたはそれでいいんだよ」
千飛鳥が、健一同様、新八の肩を強く叩いた。
「そうや、いっそのこと、団長に守ってもらったらええんちゃうか」
冗談ぽく健一が言うと、千飛鳥は怒るどころか、赤くなってうつむいてしまった。
「マジかっ」
健一が目を丸くする。他のみんなも、ぽかんと口を開けて千飛鳥を見ている。
「守ってあげてもええよ」
千飛鳥が、恥ずかしそうに新八の上着の裾を握った。
「よっしゃ、飯行くで」
健一が二人から目を背け、なにごともなかったように明るい声で言った。
「そうしましょう」
みんなも、健一に習う。
「ちょっ、ちょっと待ってください。みんな殺生ですよ」
新八の声を聞き流して、みんなはすたすたと歩き出した。
「どこの店だい?」
健一と並んで歩きながらの木島の問いに健一が答えると、木島が驚いた顔をした。
「そりゃ、俺達と同じ店じゃねえか」
「えっ、僕達もですよ」
真も驚いた。
「こりゃ奇遇だ。みんな縁があるに違えねえ。そうと決まったら、みんな一緒に行こうぜ」
木島が、さも嬉しそうに言った。
「よかったら、ご一緒に如何ですか」
麗が、カレンに声をかける。
「そうね、今年は付き合ってあげようかな」
「カレンにしては、珍しいな」
言ったものの、悟にはカレンの気持ちがわかっていた。
カレンも、二年連続でこんなことがあって親しみを持ったようだし、それに、内心ではみんなの勇敢さというか、鈍感さに舌を巻いていた。それで、少し興味を覚えたのだ。
こんだけ、カレンが興味を持つ人間がいるとはな。
悟も、内心少し驚いていた。
「よかったら、あなたもどうですか?」
春香が、ターニャに声をかける。
「いいけど、その前に、その猫の首輪を渡してくれない」
ターニャが、再び仔猫を抱いている善次郎に声をかけた。
「今度は、首輪にマイクロチップを仕込んでいたのか」
そう言って仔猫から首輪をはずし、善次郎がターニャに渡した。
「ありがとう」
ターニャは、エンジェルスマイルではなく、暖かい笑みを浮かべている。
「相変わらず、あなた達は、中身には興味がなさそうね」
カレンの言葉に、全員が頷いた。
「よっしゃ、盛大に宴会や」
健一が右手を突き上げると、みんなもそれに習って右手を突き上げた。
「直ぐに行きますから、僕の分も残しておいてくださいよ」
安藤が、みんなに声をかける。
「俺も参加するぜ」
桜井も、その気になっているようだ。
「みんさん、お幸せに」
どこからともなく綾乃の声が聞こえ、みんなは天を見上げた。
ただ二人、千飛鳥の手をなんとか放そうともがく新八と、それを離すまいとする千飛鳥を除いては。
出演
-絆・猫が変えてくれた人生-
善次郎 木島
美千代 菊池
洋平
-プリティドール-
カレン・ハート ターニャ・キンスキー
杉村悟 桜井健吾
赤い金貨の戦闘員たち
-恋と夜景とお芝居と-
秋月健一 秋月麗
香山涼子 夢咲千飛里
生田良恵 紅瑞輝
田上新八 吉野春香
-真実の恋-
日向真
実桜
-心ほぐします-
杉田敏夫
杉田里美
杉田浩太
杉田由香利
清水早苗
綾乃(特別出演)
-俺とたんぽぽ荘の住人とニャン吉-
平野洋二 木島
平野ひとみ 文江
平野洋二の両親 古川
安藤
多田野(友情出演)
今池 (友情出演)
監督・脚本 冬月やまと
「遅くなっちまったな」
「急ごう」
後始末に時間を喰ってしまった桜井と安藤は、静まり返った東通り商店街を足早に歩いていた。
「ところで、どこの店だ」
「しまった、聞いてなかった」
桜井の問いに、安藤が立ち止まった。
「しようがねえな」
「今すぐ訊くよ」
そう言って、安藤がスマホを手に持った。
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2018年お正月特別版(前後編)
これまでの長編小説の主人公が勢揃い。
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本当無理(・ω・`)
もう往復ビンタどころじゃない(・ω・`)
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