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寝ても覚めても
2018年作品/日本/119分
監督 濱口竜介
出演 東出昌大、唐田えりか
9月15日(土)、テアトル新宿にて10時40分の回を鑑賞しました。
大阪に暮らす21歳の朝子は、麦(ばく)と出会い、運命的な恋に落ちるが、ある日、麦は朝子の前から忽然と姿を消す。2年後、大阪から東京に引っ越した朝子は麦とそっくりな顔の亮平と出会う。麦のことを忘れることができない朝子は亮平を避けようとするが、そんな朝子に亮平は好意を抱く。そして、朝子も戸惑いながらも亮平に惹かれていく(以上、映画.comより抜粋)という物語です。
ほぼ予備知識がないままで鑑賞。ラブストーリーで、この手の物語は珍しくないと思うのですが、映画全体の構成と緻密な人間描写の積み重ねに唸り、俳優の皆さんの自然体の演技が素晴らしく、オープニングから今年ナンバー1のラストシーンまで引き込まれるようにして観ました。
濱口竜介監督が2015年に発表した「ハッピーアワー」という女性4人の友情を描いた5時間を超える作品が超面白そーなのですが、見逃したままになっているのですよね。この長さがは自宅では耐えられないかもですね。どこかの映画館で再上映をしてもらえないものでしょうか。
本当に大切にしなければならないものを酷く傷つけてしまう人間の弱さ
最初にこの映画には柴崎友香さんの原作小説があるのですが、そちらは未読です。映画は朝子が大阪国際美術館で、一人の青年の姿に目をとめたところから始まります。朝子は美術館を出た青年の後を追い、二人が爆竹の鳴り響く音で視線を合わせるまでの流れの緊張感は、これぞ映画!という感じでした。
この二人の恋愛模様が短い時間のなかでしっかりと描かれていて、朝子の麦と一緒にいる時の浮揚感を伴う幸せな気分と、いつか麦が自分のもとからいなくなってしまうのではないかという漠然とした不安が、巧みな描写のもとで切り取られていきます。バイクの場面の挿入の仕方など、ほんと上手いものですね。
そしてある日、麦は突然のうちに姿を消してしまうのです。やがて2年の月日が流れ、物語の舞台は東京へ。ここからの物語は麦と同じ顔を持つ亮平の視点で描かれていきます。亮平が朝子と初めて出会い、彼女に自分の気持ちを打ち明けるまでの流れや演出が実に繊細で、とにかく素晴らしいです。
▼大好きだけど〝壊れてしまったクラリネット〟のような麦
亮平の好青年ぶりと麦の掴みどころのなさ、本当に誠実なのは誰なのか
喫茶店で働く朝子は、コーヒーポットを引き取りに来た会社で亮平と出会います。何も言わずにじっと亮平を見つめ続ける朝子。この映画では、説明的なセリフを極力使わずに、ただ人物の表情や仕草をを撮り続けることで複雑な感情を露わにしようとする正攻法の映画的演出が堪能できて、息をのみます。
そして、この亮平が好青年を絵に描いたような男で、大阪弁を使う以外は麦とは正反対の人間像なのです。最初は麦への想いを引きずりながら亮平と付き合いだす朝子ですが、徐々に彼の人間性に魅かれていきます。しかし、この〝いい男〟であることもまた、後半の展開に効いてくるのですね。実際に誠実なのは一体誰なのか、映画は観客に揺さぶりをかけてきます。
映画の後半は、亮平が朝子と麦の関係を知った時にどうなるのだろうか?というヒッチコックの「めまい(58)」型のサスペンス。そして亮平と朝子が最高の幸せを感じている瞬間に、意外な形で麦が姿を現すのです。白い服装の麦はどことなく儚げで、まるで朝子にとっての亡霊のようでした。ただし麦もまた決して酷い男ではないのです。
▼幸せな亮平と朝子の前に姿を現わす亡霊のような麦(手前)
現れた麦の前で朝子はどういう行動を取るのか。亮平は朝子にどう反応するのか。ここはぜひ映画をご覧いただき確認をしていただきたいところです。朝子の行動が少し理解しにくい部分はあるものの、それが返って決して綺麗ごとではない二人の人間らしい感情を表していて、観ていて胸が痛みました。
この映画では、ドラマの背景に東日本大震災が取り入れられています。朝子は震災直後の混乱する都内の雑踏で亮平と再会し、その瞬間に目の前にいる彼との人生を決意します。その後も朝子は亮平を誘って被災地にボランティアに行き、震災と亮平は彼女の中では一つに繋がっているかのようなのですね。
未曾有の被害を受けたにも関わらず逞しく生きる人々。打ち寄せる大波を防ぎ人々を守る大きな防潮堤。朝子は防潮堤を乗り越えて夜明け前の海岸線に立ち、海を見つめながら麦の登場で混乱した自分の気持ちに決着をつけます。震災直後から始まった亮平との長い暮らしを反芻していたのかもしれないですねー。なんせセリフがないのです。
▼東北でボランティア活動をする亮平(隣は仲本工事さん)
これからご覧になる方のために詳しくは書けませんが、朝子と亮平の二人が並んで、じっと同じ方向(観客のほう)を見つめるラスト。決して交わることのない視線が二人の将来への不安や、前途が決して生易しいものではないことを感じさせます。複雑だけれども、それでも二人の幸せを祈らずにはいられない、これはそんな映画でした。
さて、この映画は高低差を活かした演出が見事で強い印象を残します。亮平の会社の非常階段の使い方など最高にうまくて、雨が降り出すことをきっかけに地上の朝子と高層階にいる亮平が視線を合わせるところや、身長差を使った階段でのキスシーンなどの演出にはドキドキしました。
そして何と言ってもクライマックスのラスト10分。雨が降る河川敷を走っていく亮平を朝子が追いかけていく点のような二人の姿を超俯瞰でとらえたショット。雲が地上に影を落としながら移動していくのが分かるダイナミックで、ため息が出そうになる映像でした。
これは最近の日本映画では出色の出来映えだと思います(上から目線をお許しください)。まるで成瀬巳喜男監督の数々の名作を思い出させる、といっては大袈裟かもしれませんが、そんな男と女のやるせない、ウダウダの物語です。
これは、ぜひ
う一度、観たい作品です。
オススメ度: 5
5 必見です
4 お薦めです
3 興味があればぜひ
2 もう一つです
1 私はお薦めしません
この項、終わり。
めまい クルマが未来になっていく。
ホップ、ステップ、めまい
疲れてめまいするのに、作ってしまいました。
葉っぱなどです。
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